東京高等裁判所 昭和24年(ネ)626号 判決 1950年2月18日
控訴人 被告 斎藤常一
訴訟代理人 山崎安太郎
被控訴人 原告 脇田政孝
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人は被控訴人にたいし、金二万円及びこれに対する昭和二十二年九月一日から右金員支払すみまで年五分に当る金員を支払うべし。
訴訟費用は第一、二審とも、控訴人の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用はすべて被控訴人の負担とする」旨の判決を求め、被控訴人は「控訴棄却の判決を求めるが、請求を減縮して、金二万円及びこれにたいする昭和二十二年九月一日から支払すみまで年五分相当の金員とする」旨申立てた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴人において、「控訴人から被控訴人へ支払うために山田槌太郎名義で富士銀行へ預けてあつた金一万円の払戻をうけて被控訴人が受領したので、本件請求中金一万円に関する部分は減縮する」と述べ、控訴人において、「右一万円の預金に関係の主張は撤回する」と述べたほか、原判決事実摘示と同一である。
証拠として被控訴人は甲第一号証甲第二乃至五号証の各一、二甲第六乃至九号証甲第十号証の一、二を提出し右書証中に斎藤誠之助とあるは控訴人を表示するものであると述べ、原審証人山田槌太郎同大村辰已の各証言及び原審における被控訴人本人訊問の結果を援用し、乙各号証の成立を認め、控訴人は乙第一、二、三号証を提出し、原審証人宮崎重人当審証人大村辰巳の各証言及び原審における控訴人本人訊問の結果を援用し、甲各号証の成立を認め、甲号証中に斎藤誠之助とあるは控訴人を表示するものであることは認めると述べた。
理由
昭和二十一年二月二十七日被控訴人から控訴人に東京都港区新龍土町六番地の十一所在の木造トタン葺平家一棟この建坪四十九坪六合を代金十万円で売渡し、即日手附金として金三万円を支払つたこと、その後、同年六月二十六日残代金支払方法について交渉が行われ、同月二十八日建物所有権移転登記をした際金四万円の支払があり、その後本件控訴申立後金一万円の支払がすんだことは当事者に争なく、本件請求はその余の代金二万円にかかわるのである。で、この二万円について、控訴人は、前記六月二十六日の代金支払方法に関する交渉の結果の一部として免除をうけたと主張するけれども、控訴人の作成した書面であること争のない甲第六号証原審及び当審における証人大村辰已の証言原審本人訊問における被控訴人の供述を考え合せると、前記六月二十六日には訴外大村辰已のあつせんによつて被控訴人と控訴人との間に残代金(七万円)の支払について交渉が行われ、結局、同月二十八日所有権移転登記をし、その際金五万円を支払い、二万円については、その支払に代えてこの金額に相当する米を、三ケ月ないし六ケ月位の間に数回に譲渡することという合意ができたことが認められる。
原審本人訊問において控訴人本人は、右の米を送るということは、一升でも二升でもよいから、好意的に小包便で送りましようと約束したにすぎず、二万円については債務免除をうけたのであると述べているが、前記大村証人の言うところに照らすと信用することはできない。
さて、代金のうち二万円に関する右認定の契約の効力について考えるに、米は食糧管理法及びこれに基く命令によつて原則として私人間において譲渡することを禁じられているものであるから、前述の如く、二万円の支払に代えて米を譲渡すべき旨の約束は法令に反することがらを目的とする契約であるとの理由で法律上無効であるとみなければならない。
従つて、控訴人が金二万円を被控訴人に支払うべき義務は前通りに存続することになるのである。その弁済期限は如何というに、前記認定の米をもつて三ケ月ないし六ケ月内に弁済すべき旨の期限の約束は金二万円の支払の期限として合意の効力を認めるを相当とするから、おそくとも、昭和二十一年十二月末までには支払わなければならないものと認むべきである。
以上の次第によつて、控訴人は被控訴人にたいして金二万円とこれにたいする昭和二十二年九月一日から右金員支払すみまで年五分に相当する遅延損害金を支払うべき義務あること明かであるから、被控訴人のこの請求をゆるした原判決は相当であつて、本件控訴は理由がなく、訴訟費用は敗訴者たる控訴人の負担たるべきものである但し、被控訴人は原審において認容せられた請求を当審に至つて、前記の部分までに減縮したので、原判決を変更するを相当と認め、主文の通り判決する次第である。
(裁判長判事 中島登喜治 判事 箕田正一 判事 藤江忠二郎)